エレベーター前に公衆電話が置かれたスペースがあって、携帯電話の使用が許可されてる。時々ここでジャージのポケットに片手突っ込んでガラ悪く喋ってる強面のおっさんがいて、口が悪く偉そうなんで、闇金かなんかの人が取り立てに来てるのかなとおもってたら、この病院の院長だった。そういえば、僕が寝たきりの頃からカーテン越しでよく聞いていた、患者の回診に来て喋っていた声と一緒だ。口は悪いわりに言ってることは患者よりで親身だな、とおもいながらも、こんな喋りの人がまさか先生だとは想像してなくて、やたら知識のある偉そうなおっさんだなーとおもっていた。実際は相当に腕のたつ外科の先生だそうで、口も態度もめちゃくちゃだけど親身になるのは間違いなく、患者からの信頼は厚いらしい。この態度はやはり土地がらで培われたものなのか、以前病院がもっと治安の悪い場所にあったころは、理不尽に絡んで来る患者と毎日どつきあいしてたという噂もあるとか。最近でも、食事をとらずにどんどん痩せて憔悴していく患者のベッドを蹴りながら「メシ食うか胃に穴開けられるか今すぐ決めんかいワレ〜」と脅して、その後その患者は泣きながら食事をとるようになり見事に回復したらしい。リハビリのときに近くのお店に連れてってもらい、夜読書をするためLED用の電池を買ったら、サイズを間違えていたのでひとりで換えに戻った。外に出ることは、もう特別なことでも何でもない。許可はもらってないけど、そんなこと緊張の理由にはならない。帰りに仕事あけの介護士さんとすれ違ったけど、それも普通に挨拶してやり過ごす。病室でまた歌がきこえてきたので、そっと廊下に出て、声のする部屋を覗いておどろいた。歌ってるのは、最近ヒステリーに大声をあげている女性その人だった。歌ってるときは穏やかな顔で、歌い終わってしばらくすると、またヒステリックになる。昨日までの僕はこの人の声に悩み、昨日の僕はこの人の声に救われたのか。人ってやっぱり人なんだなあ。全然理解できない