歩くようになると、必然的に他の患者とも顔を合わせるようになるので、何度かすれ違って顔を覚えてしまった人に対してどうふるまったらいいかで悩む。これが病院でなかったら、こんにちは、と挨拶をするのが普通だけど、病室はカーテンで仕切られてるだけで外と筒抜けなんで、挨拶きっかけに関係が近くなって、ベッドまで話しに来られたりしたら面倒だという意識がはたらいてしまう。実際に、向かいの病室では患者同士が仲良く話してるのが聞こえてくるし、場合によっては自分もこうなってしまう可能性が無いとは言い切れない。今のところ、すれ違いざまに軽く会釈はするけど、できるだけ心は開かずにおくという、わりと最低な選択をしてしまっていて、もし話しかけられたら応えるけど、なるべくそそくさとその場を去るようにしている。そして、階段をのぼれるようになるための練習と自分に言い訳をつくって、しょっちゅう屋上に行っては、そこでひとりの時間を過ごす。では、ベッドの上で一日を終えていたついこの間まで、この屋上に代わるものは何だったかを今になって考えると、これは映画だったんじゃないか。寝る前はここぞとばかりにDVDで映画をみていて、それも、一度見た作品を見返すことばかりしていた。以前、大阪である展覧会のため過酷な状況がつづいていたときに、夜中に毎晩、田舎の静かな風景がうつる映画を見つづけていて、展覧会がオープンして、次の仕事のためフランスのポン=ド=バレという小さな村に移動したら、今度は都市がうつる映画を無性に見たくなった経験がある。都市にいて田舎を、田舎にいて都市を見たいとおもう気持ちが、映画を見ることの根本にある。今は、病室という都市にいて、屋上という田舎に出かけてるようなものか。あるいはその反対かもしれないけど