フリーマーケット帰りのみなちゃんやシンジたちが来て、しらっと車いすごと近所の商店街まで連れ出してくれた。行き交う人に圧倒される。小さな商店街でたいした人出じゃない、むしろ閑散としてるけど、自分が車いすであるということが緊張を強いる。お店の人に覗き込まれたくないので、できるだけ店の中を見ない振りをしながら、でも本当はどこもかしこも気になって仕方がない。皆が歩幅を僕のペースにあわせてくれるのも、道の真ん中を進んでるのも、対抗の歩行者や自転車が自分をよけてくれるのも、それぞれの気遣いをスルーしてる自分がいちいち気になる。気にしなくていいとわかっていながら、まだまだ慣れない。夢にまで見た食べ物を横目に、どんどん通過する。うどん屋も喫茶店もあったけど、入るのは遠慮しておいた。ここまで来たら、今の自分にとっていちばんのうどんが食べたいし、いちばんの喫茶店に行きたい。病院に戻るとき「入り口に監視カメラあるやん!もう帰られへん!」と日海、8才。外に出るときも、スパイ映画さながらの動きだった。向かいのベッドのHさんはよくスポーツ新聞を読みながら、ボールペンを持って競馬だか競艇だかの予想をしてる。夜は痛みであまり寝られなくて、時々うめき声がきこえることもあるくらいだけど、日中は日課のように予想して、面会に来た友達と話をする。 ほな馬券買うといたるわ、しっかり治しや。ちゃんと食わなあかんで、じぶんどんどん痩せていっとるやないか/めし食う気にならんねん/食う気になるならんやなくて、何か食わな死んでまうで。好きなもん買うてきたるわ、何がええねん/頼んでええんか/ええから言いや、何がええ?/あんな、おれ、もう10年とは言わん、20年くらい買うたこともないねんけど/何やねん、高いもんか?/いや、高くない/ほな早よ言いな、すぐ買うてくるわ/ええんかほんまに/ええから言いや/コーラ/コーラ?コーラて飲みもんのコーラかいな、よっしゃ、下の自販機で買うてきたる、ちょっと待っとき/あんな/おう何や、他にもあんのかいな/そんな高いもんやない、300円くらいので、あれやったら食べられる気がするねんけど/何やねん、買うてきたるがな/ほっかほか亭のな、玉子丼、お願いしてええかな/玉子丼な、よっしゃ、ちょっと待っとき/あんな/何や/もし売り切れやったら/売り切れはないやろ/でももし売ってなかったら、カツ丼でもええわ/カツ丼?じぶんカツ丼食べれんのかいな。ほんまはカツ丼が食いたいんか?/あれやったら、食べられる気がするねん/わかった、食いたいもん食うたらええがな/あんな/おう、まだあるんか/モルヒネって手に入らんかな/やめとけやお前/痛いから/そらわかるけど、ここ病院やで、先生に相談せえ/あかんか/あかん。コーラとカツ丼すぐ買うてきたるわ、待っとけ