夜中に叫び声をあげていたおばあさんは、朝からナースステーションの前で駄々をこねてる。筋のとおらないことがほとんど、要は誰かにかまってほしいだけ。看護師や介護職のスタッフはこれを適度に聞き流して、ほとんど取り合わない。きっといつものことで、そもそもかまってる暇もないだろう。赤ん坊や小さい子供ならどんなに駄々をこねてもいいし、周囲の人から一方的で献身的な愛情を注いでもらえる。泣き出したら、すぐに誰かがかけつけてくれる。でも一度年を取ってしまうと、そうはならない。どんな状況であれ、一度大人になった人は、一方的に受け身であることを、なかなか許してはもらえない。与えられるだけでなく、与えることを知ってるはずだから。もし記憶や知識がすっかりなくなったとしても、それだけは忘れずに残ってると、信じてるのか、信じたいのか。そのどっちだろう。今日は土曜で主治医の先生が休みだからと、リハビリのお兄さんが外に連れ出してくれた。まず午前に歩行器を使って歩く練習をして、午後にその足で病院の外周を歩く。もう、歩行器で歩いても膝が笑わなくなった。「先生にバレたら怒られますけど、駐車場に車が停まってなかったんで大丈夫ですわ」 このお兄さん、見た目かなり若そうだけど、しっかりしていて指導がわかりやすく、いま起こってる症状や、今後起こりえる後遺症についても丁寧に説明してくれる。「ここの公園ね、よく患者さんが煙草吸いにきてはりますよ。お年を召した患者さんで吸うたらあかんて言われてる人もいますけど、今更やめるくらいなら死んでもええいう人が多いんでね、僕は見て見ぬ振りしてますわ。病院の中やったら注意しますけど、ここまで出てきたらもう、ねえ」 ぐるっと回って病院にもどって、明日は自分も休みだから自分でやっといてください、と病室にトレーニングの器具を持ってきてくれた