朝から座る練習をつづけて、お昼を過ぎた頃には背もたれが無くてもふらつかなくなった。ただ座ってるだけで上達を実感できるという、お手軽な成長。車いすを自走できるタイプに変更してもらって、まずは水を汲みに給水器まで移動し、ペットボトルに水を汲んで戻るのを2往復。連続で徹夜した後のような、頭の先と足のつま先が自分のものではないかのような感覚が少し。昨日とは違って、廊下も談話室もナースステーションも冷静に観察することができた。思っていた通り、というより思っていた以上に、周りの患者は老人ばかり。談話室に体重計があるので、手放しで立てるようになったらまず乗ってみようとおもう。そして、トイレで立ち小便をすることが叶った。拍子抜けするくらいあっさりと。手すりと壁に体重をかけて一気に放出しながら、なんだかよくわからない気分になる。さよならとただいまを同時に言ってるような。立ち上がりは看護師さんに手伝ってもらったので、今後ひとりで立ったり座ったりするのはどうすれば可能か、車いすはトイレ内でどう停めていれば楽に動けるか、次なる大きな山、というか大きな便に向けてのシミュレーションをしておいた。昨日からひとつひとつことを成していくごとに、発見はあるけど、とくにこれといった達成感はない。普段の生活を取り戻していくことが、これまでとは全然違うスピードで起こりはじめてる。それがあまりに淡々としていて、あっという間に慣れて当たりまえになってしまうことに、むしろうっすらと背徳のような気持ちすら感じる。屋上があるというのでエレベーターに乗って行こうとしたら、看護師さんに止められた。先生に相談してもらったところ、病院の中であれば、付き添いがいれば移動してもよいということだったので、後に微々と松井さんが来たときに3人で屋上へ上がって、6週間ぶりに外の空気を浴びた。海の方になみはや大橋がみえる。ウッドデッキで囲まれた屋上風情のない空間だけど、やはりこればっかりは感慨深かった。せっかくのチャンスなので、先生の忠告を無視して外にも出してもらった。はじめて見る病院の外観。一周してもらって裏に喫茶店をみつけたので、近々ここに来るかもしれない。煙草も吸うかもしれない。下手したら今この瞬間、このまま家に帰ってカップラーメンを食べて寝ることだってできるじゃないか。あんなに待ち望んだビッグイベントである一方で、外に出ることでさえも、あっという間に慣れて当たりまえのことになっていく