男がいなくなったベッドが、きれいに掃除されてる。あの人ね、家に帰ったのよ、大人しい人やってんけどね、急にどうちゃったんでしょう。昨日来た友人が言ってたように、彼にはここの生活が耐えられなかった。どんな状況であれ、そこに居づらい人はいる。状況が違えば、その場から消えてしまいたくなるようなことは、自分にだってたくさんある。皆同じようなテンションで、なんとなく笑顔で、あなたも楽しいでしょ?みたいな空気が充満してるときとか。互いを監視しあうかのように、全員で一斉に同じことを哀れんでるような空気とか。強いものが支配していて、その強いもの自身が、己の強さに全く無自覚で成立している空気とか。そういう状況になることがあらかじめ予測できていれば、外に出ることなく、布団にくるまって寝てることもできる。でも、その現場に居合わせてしまうことのほうが圧倒的に多く、そのときはもう、逃げ出すか、破壊するしかない。逃げては壊して、壊しては逃げて。ときには壊しすぎて、ちょっと周りに迷惑をかけて。そしていつも、そのつけを払って。ずっとそうやって、周りを、自分を、だましだましやってきたような気もする。「どうしたん?」「さっきそこに猫おってな」「猫おらんよ」「いや、さっきおってんよ、そこにすーって入ってった」「猫はおらん、ここ病院やからね、猫は入ってこられへんよ」「いや、でもさっき、、」「おらん、さ、ベッドに帰ってや、もうすぐごはんよ」