面会時間の終わり際に友人が来て、自分ならこういう入院生活に耐えられない、不安で発狂しそうになる、と言った。僕は全くそんなことないけど、状況次第では、そうなってしまう心理もわかる。たとえば火事や地震やテロが起きたら。でも友人が言ってるのはそういうことじゃない。話をしていたら、急にカーテンが開いて、知らない男がじっと見ている。僕らがうるさかったのだろうとおもい、スミマセンもう帰ります、と言ったら無言のままいなくなった。この病室の患者らしいが、あんな若い人がいたとは知らなかった。そもそも最初からいたのか、昨日今日入院したのかもわからない。友人が帰って、しばらく本を読んで、メールを2~3通返して、灯りを消し、ラジオを聞きながら寝る。ふと人の気配がしたので、看護師さんが尿瓶を取りに来たのだとおもって薄目を開けたら、さっきの男がカーテンの隙間から覗き込んでる。真っ暗で顔もなにも見えないけど、なんとなくのシルエットでわかる。何か?と尋ねたら逃げるようにすっといなくなった。せっかく眠るとこだったのに。またうつらうつらし始めたころ、今度は別の方向から気配を感じて目を開くと、さっきと反対側のカーテンがゆっくり動いてる。さっきの男が中を覗き込もうとしてるのがわかったので、枕元の壁をドンと叩いて、おい、と言ったら、さっとその場を離れて、いかにもその辺りを歩いていただけです、と言わんばかりに不自然な動きをする。それからはもう油断も隙もならないので、じっとカーテンの外に耳を澄ます。ときどきブツブツなにか言ったかとおもうと、病室の中を行ったり来たりして、廊下へと出て行く。外では雨が降っていて、対面のおじいさんは、いつも飲んでる痛み止めが効いてるのか、すやすや寝息をたてている。病室の入り口が開いて、ゆっくりと忍び足が近づいてくるのがわかる。何か投げてやろうかと空のペットボトルを握ったら、またすっといなくなる。しばらくして、男は看護師さんに連れられて戻って来た。他の人の部屋に入らないでください、何かあったら疑われますし、迷惑ですから、大人しく寝てください。どのくらい経ったか、今度は何やら警報みたいな音が鳴って、院内が慌ただしくなる。別の階からも宿直の職員たちが集まって来て、懐中電灯を照らしながら何かを探しだす。4Fで火災警報がなったんですけど、異常なさそうなんで戻ります、と、持ち場に帰る人たち。男はまたそわそわしはじめる。何かごそごそやって、バタン!と大きい音がした瞬間「なにをしてんねん!」と、アヒルの決闘の〇〇さんが怒った。男はブツブツ小言をいいながらまた出て行って、看護師さんたちと戻って来て、ついに病室からつまみ出された